きみは「Let it be」と言った

ありのままに自分の好きなことを思いつくまま

空に星を浮かべる旅【序章】

「そのうち」なんて当てにならないな。いまがその時さ。
                        ―――スナフキン
 
通学する大学生を横目に、ぼくは空港行きのバスを待っていた。
時間の流れと自分の気持ちの歩幅をあわせて。
”その景色が見たい”その気持ちと1週間ほど生活するだけの最低限の荷物を入れた30Lのリュックサックと共に。
 
 
ちょっとだけ昔の話になってしまうけども、大学生の時、ぼくは海外によく行っていた。
1週間ほどの短期間で見たい景色を見に行くこともあれば、大学を休学して、10か月ほど海外で生活していたこともある。
 
たくさんの貴重な経験があったけど、
その中から、短期間で見に行った旅行で、タイのコムローイ祭りを見に行った話を4、5回ぐらいに分けて書いていこうと思う。
今回は、序章。
 
 
ぼくがコムローイ祭りの存在を知ったのは、エジプトで出逢った世界一周中の友人の話を聞いた時だった。
「世界一周していろんな景色を見てきたけども、タイのコムローイ祭りが一番綺麗で感動したなぁ。」
この一言。
世界中の景色を見てきた人が、その中で最も興奮する景色。その景色を見てみたいと思わせるだけには十分すぎるくらい強い言葉だった。
ぼくは熱心な仏教信者ではないし、神様に幸福をお願いしなければいけないほど行き詰まっていることもなかった。
でも、やさしいオレンジ色の光が漆黒の闇を彩る、その景色をイメージすると、胸の鼓動が高まるのが分かった。
自分の細胞に、その会場の空気を取り入れたいと思っていた。
 
 
そもそも、コムローイ祭りと書いてきたが、このお祭りはいろんな呼び名がある。
イクラトン・コムローイ・イーペン祭り etc…
どの呼び名も意味があって、違うものを示している。
 
イクラトンは、タイ全土で行われる仏教のお祭り。
ろうそく・線香・花などで美しく飾ったたくさんの灯籠を川に流し、水の女神に祈りを捧げる。
開催時期は、毎年陰暦12月(新暦10月〜11月頃)の満月の夜に行われる。
 
コムローイは、和紙で作った熱気球のようなランタンのタイ語での呼び名のことを示している。
コムローイ祭りという表現は、タイで行われるランタンを飛ばす祭りすべてを総称している。
 
イーペン祭りは、一年に一度だけ、みんなで一斉に大量のコムローイを上げる祭りのこと。
イーペンは、チェンマイなどのタイ北部の言葉で「毎年陰暦12月(新暦10月〜11月頃)の満月」という意味で、
この言葉の通り、開催時期は毎年陰暦12月(新暦10月〜11月頃)の満月の夜。
天にいらっしゃる神様に日々の感謝と生活の幸福、そして厄払いの意味を込めてたくさんの熱気球を真っ暗な空に放つ。
みんなのイメージするお祭りがこれ。
 
 
ぼくが参加したのも、このイーペン祭り。
満月の夜を狙って行われる祭りだから、毎年、開催される日付が変わる。
ぼくのときは10月25日の土曜日だった。
 
10月21日に出発して10月31日に帰ってくる、ゆっくりとタイを楽しむ予定を立てた。
イーペン祭りを見るという目標だけを定めて、事前の予約なんて何もしない、そんな行き当たりばったりの旅。
一緒に行ったのは、世界一周経験者の友人2人。
 
平日があることは気にしていなかった。
卒業に必要な単位は取得済みだったし、研究は自分でスケジューリングできたから、というのもあるけれど、
何よりも、見たい景色を見ることができる胸の高まりが僕を先行していた。
自分の気持ちが時間の流れよりも先に行く、そんな感覚だった。
 
 
次回は、実際にタイに降り立つ。
過去の日記や写真を読み返して書いているけど、過去に浸るのは気持ちがいい。
こういった弱さも時には必要、そう割り切って、もう少しぜいたくな時間を過ごそうと思う。